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東京高等裁判所 昭和52年(く)245号 決定 1977年11月04日

少年 O・Y(昭三四・八・二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人提出の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、少年を満二〇歳を限度として特別少年院に戻して収容する旨の原決定は不当であるから取消されたいというのである。

そこで一件記録を精査するに、原決定が理由として説示している事実は十分にこれを認めることができるのであつて、少年が仮退院をした後の勤労意欲を喪失した放縦な生活態度や行状、ことに仮退院の際きめられた遵守事項を守らず、家出をしては遠隔地に放浪し、その間重ねた非行の態様、これまでの少年の非行歴、資質、特性、家庭環境、その他諸般の事情を考量するときは、原決定が在宅保護の措置をもつてしては少年の性格の矯正とその健全な育成を図ることができないと認め少年を満二〇歳を限度として特別少年院に戻して収容する旨の決定をしたのは相当であつて、不当な処分であるとは到底考えられない。

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項後段によりこれを棄却することとして、主文のとおり決定をする。

(裁判長裁判官 寺尾正二 裁判官 山本卓 杉浦龍二郎)

参考一 抗告申立書

理由

私は昭和五二年七月二〇日頃より千葉市内にある暴力団に正式な組員としてではなく手つだいという感じで入りました。しかしその中で一ヶ月程生活して暴力団というものが、どんなにいやしく人間のくずの集りだという事が、良くわかりました。私は、人の上に立ちたいという気持ちから先の事も考えずに入つてしまいとても後悔しました。しかしやめたいと言つてもやめさせてくれないので昭和五二年八月一五日にこの暴力団から逃げ出してしまつたのです。私は、それからこの暴力団には、昭和五二年九月三日に○○署に補導されるまで一度も戻つていません。

保護司の所には、昭和五二年五月九日に神奈川少年院を仮退院してから四回会いに行きました、最後に行つたのは、昭和五二年七月二九日です。私が、連絡をしなかつたのは、八月だけです。

悪友との付き合いは、暴力団に出入りしている時に何人かいましたが、逃げ出してからはほとんど会つていません。特に昔の悪友との付き合いは、一切しないように自分からさけていました。又、私の職場を知り昔の悪友が何人もたずねて来たので自分からそこの職場をやめてしまつた事もあります。私は私なりにこれから頑張ろうと考えていたのにこの様な決定を下されとても残念です。

以上の通りで抗告を申し立てます。

参考二 原審決定(千葉家 昭五二(少ハ)四号 昭五二・一〇・三決定)

主文

少年を満二〇歳を限度として特別少年院に戻して収容する。

理由

(本件申請の理由の要旨)

1 少年は、昭和五二年五月九日、神奈川少年院から仮退院を許され、保護者の許に帰住し、仮退院期間を昭和五四年八月一日までとして千葉保護観察所の保護観察下にあるものである。

2 千葉保護観察所においては、少年に対して保護観察を行うにあたつて、少年が一一歳頃から家出、盗みなど虞犯的行為及び非行を惹起し、これがため養護施設及び教護院に送致されたが、少年の反社会的行為は改善されず、その後においても家出放浪及び行動の粗暴化が強まり、更に保護観察、初等少年院送致の処分歴をもつに至つた経過等を考慮して、「早く定職に就いて、真面目に辛抱強く働くこと」「夜遊び盛り場徘徊などしないこと」「無断外泊、家出、放浪などの生活をしないこと」「不良交友に注意し、誘われても追従せず慎重に行動すること」などを特別遵守事項として定め、少年はこれを遵守することを誓約した。

3 ところが少年は

(1) 仮退院二週間後の昭和五二年五月二三日頃から熔接工として三日間位働いたが風疹にかかり家で静養するうち勤労意欲をなくして前記熔接工をやめ、同年七月三日頃から飲食店の店員として約一週間働いた以外定職について真面目に働くことなく放従な生活を続け

(2) 昭和五二年六月一三日頃、同年七月一六日頃及び同年七月三一日の三回にわたり家出して東京、大阪方面にあてどもなく放浪して、転々無断外泊を累ね

(3) 昭和五二年七月三一日頃から暴力団事務所に止宿し、前記暴力団の「○○○○○」の接客係として約一〇日間手伝つたほか、同年八月九日から一〇日にかけて暴力団の若い者らと海水浴に行くなど素行不良者らと交際をなし

(4) 昭和五二年七月三一日無免許で普通乗用車を運転して自転車と衝突し塔乗者の小学三年生に対し加療約一週間の傷害を負わせて、そのまま逃走し

(5) 昭和五二年八月一五日頃、友人が前記暴力団事務所においてその組長保管にかかる現金三八万円を窃取したところ、前記情を知りながら、前記友人とその金を持つてホテルに泊り遊興に費消した。

4 少年の前記行為は前記遵守事項に違反したものであり、少年は少年院送致決定前と同様生活行動が極めて不安定な状態にたち戻つたものと認められ、少年をこのまま放置すれば将来重大な非行を累ねるに至る虞が大きく、保護者は少年の監護に疲れ切つている状態にあり、更に保護観察における指導監督及び補導援護の方法をもつてしては少年の改善更生を図ることはできない状態にある。

5 そこでこの際少年をすみやかに少年院に戻して収容し、新たな反省の機会を与え、将来の更生を期することが、最も妥当な措置と認められる。

(当裁判所の判断)

保護観察官の少年及びその母に対する各質問調書、保護観察官作成の保護観察経過報告書、当審判廷における少年及び母の各供述によれば、少年が本件申請の趣旨のとおり遵守事項に違反したことは明らかであり、当裁判所調査官の調査及び鑑別結果によれば、少年の仮退院後の行動傾向からみると、少年の内面はかなり不安定であり、少年は将来への希望を失い刹那的衝動的となり、快楽追求的な態度をとり、体力があり且つ自己顕示性が強いことから暴力団に親和する可能性が強く、いまだ非行性が除去されておらず、少年院入院以前同様の状況にあり、保護者ら家族にはこれを監護善導すべき力がなく、少年自身自己洞察を深め、特に体力気力を養い自己の欲求を制禦できる意思力をもつ必要があることが認められるから、この際少年を満二〇歳を限度として特別少年院に戻して収容し再教育する必要がある。

よつて本件申請を理由あるものと認め、犯罪者予防更生法第四三条第一項少年審判規則第五五条少年院法第二条四項に則り、主文のとおり決定する。

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